橋本絵莉子
3rd Full Album
2026.7.22 (wed) ON SALE
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SLRL-10180
¥3,500(税込)
※スリーブケース仕様
ご購入者先着特典
『OVER LIFE』を対象店舗にてご予約(ご購入)いただくと、下記の先着特典をプレゼントいたします。
【対象店舗限定特典】
『メガジャケ』
『オリジナル缶バッジ』
『オリジナルステッカー』
『オリジナルポストカード』
¥9,900(税込)
※ROCKET-EXPRESSにて数量限定販売
【セット内容】
“特製OVER LIFE BOX”
詰め合わせセット
予約/購入
OVER LIFE tour 2026
2026年9月29日(火)
徳島・徳島club GRINDHOUSE
開場18:30 / 開演19:00
問合せ:DUKE
087-822-2520 (平日11:00~17:00)
https://www.duke.co.jp/
2026年9月30日(水)
岡山・岡山YEBISU YA PRO
開場18:30 / 開演19:00
問合せ:YUMEBANCHI (岡山)
086-231-3531 (平日12:00〜17:00)
https://www.yumebanchi.jp/
2026年10月8日(木)
愛知・名古屋クラブクアトロ
開場18:30 / 開演19:00
問合せ:サンデーフォークプロモーション
052-320-9100 (全日12:00~18:00)
http://www.sundayfolk.com/
2026年10月16日(金)
大阪・梅田クラブクアトロ
開場18:15 / 開演19:00
問合せ:キョードーインフォメーション
0570-200-888
http://www.kyodo-osaka.co.jp/
2026年10月18日(日)
東京・Spotify O-EAST
開場16:00 / 開演17:00
問合せ:ホットスタッフ・プロモーション
050-5211-6077 (平日12:00~18:00)
https://www.red-hot.ne.jp/
橋本絵莉子『OVER LIFE』
インタビュー【前編】
——ニューアルバム『OVER LIFE』がいよいよ7月22日にリリースされます。前作『街よ街よ』から2年3ヵ月ぶりとなりますね。
橋本:気がついたらそんなに経っていたかという感じです。『街よ街よ』をリリースしてわりとすぐに新しく曲作りを始めていたので、自分ではあんまり期間が空いたなっていう感覚はないんですけど。
——たしか『街よ街よ』のツアー(“街よ、見街よ、良い街よツアー 2024”/2024年10月開催)のときに、当時は「オンリーミー(仮)」というタイトルで今作にも収録されている「オーバーライフ」の原型となった曲を新曲として披露されていましたよね。MCでも「本当は少し休んでもいいかなと思っていたけど、気づいたらリリースの翌月くらいには曲を作ってた」とおっしゃっていて。
橋本:そうなんです。最初は間を空けようって思っていたんですけど、案外すぐに作り始めていました(笑)。
——『街よ街よ』が完成した直後は少し休みたい気持ちもあったんですか。
橋本:休みたいというよりは、作曲に向かう力、次に向かうエネルギーがまだない気がしていたんです。とにかく『街よ街よ』を形にできてよかったっていう気持ちでいっぱいで、次をどうするとかちょっとまだ考えられないなって。
——そこから「やっぱり作ろう」と思えたのは何か理由が?
橋本:最初は興味本位だったんですよ。まだそんなにやる気に満ちていない、フワッとした状態で曲を作り始めてみたらどうなるんだろう、みたいな。『日記を燃やして』や『街よ街よ』では過去のストックから持ってきた曲も結構入れていたので、もし次にアルバムを作るとしたら全部新曲にしようというのは、ぼんやりとイメージしていたんです。ストックには頼らずゼロから作り始めようって。ただ、そうなるとかなりエネルギーが必要になるから、ちょっと間を空けたほうがいいかもしれないと最初は思っていたんですよね。でも、この状態でどんな曲ができるんだろうっていう興味が湧いてきてしまって(笑)。
——いかにも絵莉子さんらしい(笑)。
橋本:だから実験みたいな感覚です。いつもは「よし、作るぞ」と思ってから作り始めることが多いんですけど、そうじゃないときに作った曲がどういうものなのか自分でも見てみたくなって。それで最初にできたのが「電車でガタゴト」だったんですよ。2024年の5月だったかな。
——本当にリリースから間もないですね。ちなみに今回のアルバムは絵莉子さんのキャリア史上初めて曲先で作った楽曲がメインの作品であることが前もってアナウンスされていますが、「電車でガタゴト」の時点から曲先だったのでしょうか。
橋本:「電車でガタゴト」は最初、詞先でした。なんの気なしに詞先で作って、一旦は形にしたんです。だけどそのあとに作った曲がほとんど曲先だったから、ある程度までデモが揃った段階で「電車でガタゴト」を改めて振り返ってみたときに「まだいけるな」と思えたのでサビ以外を全部、楽器のアレンジとかはそのままでメロディと歌詞を作り直したんです。
——つまりサビだけ詞先のまま残して、他を曲先で作り直した?
橋本:そうです、そうです。楽器のアレンジを聴きながら、新たにメロディを作って、それに合う歌詞を乗せて。全然違うものになりましたね。
——そもそもバンド時代からずっと詞先だった曲作りを、なぜ曲先でやろうと思ったのでしょう。
橋本:「電車でガタゴト」を詞先で作ったあと、ちょっとウロウロしちゃったんです。このままだとまた詞先でアルバムを作ることになるのかなって。でも『街よ街よ』のときに1曲だけ曲先で作った曲があるんですけど、それがすごく楽しかったのを思い出して。
——「慎重にならないか」ですね。
橋本:はい。せっかく今回はストックを封印して新しい曲だけで作ることにしたわけやし、だったら曲先がメインのアルバムにするのも面白いかもって思ったんです。ただ、最初は全然できませんでしたけどね(笑)。「よし、曲先でいくぞ」って思ったはいいけど、やっぱり難しいんですよ。チャレンジしては「めっちゃ難しい! これじゃアルバムなんてできへんかも」って挫けて、詞先に戻ってみたりもして。でも、それだと前と一緒やんって思い直して、またチャレンジして、をしばらく繰り返していました。
——それでも曲先というスタイルに新たな可能性を感じた?
橋本:それもあったと思います。「慎重にならないか」を曲先で作っていたときの“先の見えなさ”が面白かったんですよ。「まさか、こんな曲になるとは!」っていう驚きがすごかったんですよね。詞先だとすでに顔が見えている状態で進んでいく感じだけど、曲先はどう着地するか、まったくわからないのがめちゃくちゃ新鮮で。6割ぐらい自分でアレンジしてからデモをメンバーさんに投げて、そこから一緒にさらにアレンジしていくんですけど、そこまでの一人作業も曲先だと楽しいということに気づいたんです。どんな曲になるかわからない状態で進められるから。そういう感覚って詞先だとあんまりないんですよ。
——知っている人に似合う服を着せてあげるのが詞先だとしたら、曲先は思いがけず出会った初対面の人のために洋服屋さんを探すところから始める、みたいな。
橋本:そうそう! まさにそんな感じ。そのときその場でどうするかっていう感覚が味わえるんです。
——それにしても、いきなり曲先とは思い切りましたよね。
橋本:チャレンジしても全然できないっていうときに気持ちが折れなくて本当によかったです。作りながらも「もう曲先、やめようかな? やめてもいいよな?」ってめっちゃ思っていたんですよ。でも、曲ができたときはものすごく嬉しくて、その嬉しさで「もう1曲」「もう1曲」ってどんどん進んでいけて。
——曲先でいちばん最初に形になった曲というと?
橋本:「EMO」です。2024年の夏ぐらいにできたんですけど、そのときは本当に嬉しかったですね。「やった! できた!」って一人で沸々と嬉しさを噛み締めながら、これならアルバムもいけるかもって思いました。兆しが見えたというか、すごく自信になって。
——とはいえ、アルバム1枚分の楽曲をまっさらな状態から作っていくなんて普通に考えたら気が遠くなりそうですが……。
橋本:たぶん今までとは作り方がまったく違うから、大変だと思わなかったんでしょうね。ギターとは違う楽器を弾いている気楽さ、初心者だからこその気楽さで「あ、こんなやり方もあるんや」「こんなこともできるんや」ってやっていけたというか。
——なんだったら失敗しても構わないし。
橋本:そう、全然いいやって。実際、メロディまではできたけど、どうしても歌詞が乗らない曲もあったんですよ。でも、那是それでストックしておけばいいから、「はい、次!」みたいな(笑)。悩むのは今じゃないと思ってサクサクと進めてましたね。すごく好きって思った曲はできるだけ粘りましたけど。
——絵莉子さんが曲先で作る場合、何が取っ掛かりになるんでしょう。
橋本:私はやっぱりギターですね。その日の自分が弾きたいコード、好きな響きから始めてました。同じようなコードでも「こっちの指で弾いてみよう」とか、コードだったらもう何をしてもいいわけですよ。文字の制限がないから好きなように弾けるし、自由にメロディも付けられるんです。で、大体のテンポとか雰囲気とか「いいかも」ってなったらパソコンに録音して、それを聴きながら、言葉にもならないような鼻歌で歌ってみるんです、何回も。そうしていくうちに、どんどん言葉になっていくというか……例えば「なんとなくこれっぽいな」っていう単語が一つ見つかると、そこからフワッと広がったりして。
——こういうことを歌おうと思って歌詞にしていくのではないんですね。
橋本:そういうのはまったく考えなかったです。メロディに似合いそうな言葉とか、フンフ〜ンって歌っているうちに自然と出てきたひらがなを集めて、それをあとで整えるという感じでした。でもメロディまでは意外とスムーズなんですけど、歌詞を乗せるのはめっちゃ難しいんですよ。日本語ってメロディに乗せると急に野暮ったくなるんですよね。デタラメで歌ってるときはいい雰囲気なのに。
——たぶんそれ、日本のミュージシャンのほとんどが最初にぶち当たる壁ですよ。ロックミュージック自体が欧米由来だから、かっこよく日本語を乗せようと思うとすごく大変だってみなさん、よくおっしゃっていて。
橋本:そうなんですね! まさにそれです。めっちゃ思いました。
——20年以上のキャリアにしてようやく今(笑)。
橋本:本当にびっくりしたんですよ。メロディに乗せようとすると急にダサくなってしまって「え、こんなに?」って(笑)。その関門をくぐり抜けられる言葉を見つけるまでが、本当に難しかったですね。これはいいぞって思える日本語が見つかりさえすればもうこっちのものなんですけど。
——見つかるまではもうずっと言葉のことを考えているんですか?
橋本:メロディさえあったら頭のなかではいつだって歌詞のことを考えられますから。別にパソコンに向かっていなくても、紙に向かっていなくても、何をしていようと言葉はずっと探せるので。
——曲先で作ることによってご自身の歌詞に変化を感じたりはしましたか。
橋本:まだ全然辻褄の合っていない、とりあえずメロディに乗ってるだけの段階では、今までにないなって思っていたんですよ。でも、いざ意味のある歌詞にして、何回も歌っていくと、どれが曲先で詞先か、自分でもよくわからなくなりますね。意味のある歌詞に整えた瞬間に「もともと、こういう曲でした」みたいな顔をするんです、その曲自身が。
——しれっと(笑)。
橋本:そう! 詞先で作った「私、こういう曲なんです」っていうのと同じような顔にどんどんなっていくんです。ただ、詞先のときは歌詞を書いて、メロディを付けて、アレンジして、っていう明確な順路があるんですけど、曲先の場合はそれがなかったんですよね。まだ私が慣れてないからだと思うんですけど、完成に至るまでが一直線じゃないというか、行き詰まったら他の曲の作業に移ったりもするし、あちこちフラフラしながらできていくんですよ。だから私自身もどうやって作ったかあんまり思い出せなくて。この歌詞ってどうやってできたっけ? みたいな不思議さは今までにない感覚でした。
——途中で別の曲も並行して作ったりとか、詞先のときはなかったですか。
橋本:あんまりないですね。詞にメロディをつけるのもわりと早いほうだったので、めちゃくちゃ悩むようなこともそんなになかったし。
——聞けば聞くほど興味深いです。あえて得意技ではない方向へとご自身を駆り立てていった、その動機の源泉をますます知りたくなるというか……『街よ街よ』というアルバムは相当にエネルギーを費やした作品だと思いますし、それを完成させたことである種、やり切った、出し尽くした気持ちになられたのかなとか、勝手に想像したりもするのですが。
橋本:そういうのもあったかもしれないです。『日記を燃やして』と『街よ街よ』を作って、じゃあ次はどうする?って考えたときに今までとは違う作り方をしたいって思ったんでしょうね。ただ曲作りをするんじゃなく、今までと違ったチャレンジがあったほうが自分のエネルギーが向かいやすかった気がします。
——それって、このままでは同じことの繰り返しになるな、それだと新しいものは生めなくなるんじゃないか、みたいな不安や危機感でしょうか。
橋本:そういう、自分が成長できないかも、みたいな建設的な危機感じゃなくて、むしろ自分のなかにエネルギーがないことへの危なさというか。しばらく曲作りに燃えることができないかもしれない、このままだと何もやらないのでは……?って。『街よ街よ』を作っていたときに、まだデモの段階なのに、曲がすっかり古くなってしまったように感じた時期があったというお話をしたと思うんですけど。
——はい。『街よ街よ』のインタビューをさせていただいたときに、そうおっしゃっていましたね。
橋本:曲と自分の距離が離れてしまったというか……そんなふうに感じるのが初めてだったんです。その経験が私にとってはかなり大きくて、『街よ街よ』で は乗り越えられたけど、もう一度、これまでと同じ姿勢で歌詞から作っていくのは難しいかもしれないという気持ちになってしまって。それでも、とりあえずこの状態で曲ができるかどうかやってみようと思って作り始めてみたら、どんどん曲先という新しいものにチャレンジする面白さに染まっていったっていう。
——そうするうちに曲先の「EMO」が生まれて、エンジンがかかって。
橋本:やる気になるまで待たずに、とりあえずでもいいからって曲を作り始めて本当によかったと思いますね。
——やっぱり生粋のミュージシャンでありアーティストというか、曲を作らずにはいられない人なんでしょうね、絵莉子さんは。ファンのみなさんも今、「よかった!」って胸を撫で下ろしていらっしゃると思います。ところで、曲を作っている期間、サポートメンバーの曽根巧さん(G.)、村田シゲさん(B.)、北野愛子さん(Dr.)とニューアルバムの話はされていたんでしょうか。
橋本:みんなには秘密にしていました。『街よ街よ』のツアーのときも次のアルバムのことは黙っていて。あ、でも曽根さんには言ったかな。「今、曲先でやってるんだよ」「ええやん」みたいな会話をした記憶がありますね。でも、まだどうなるか自分でもわからなかったので、詳しいことは話さずにいたんです。
——でも、のちに「オーバーライフ」になる「オンリーミー(仮)」をそのツアーで披露されましたよね。それに関しては?
橋本:「新曲をやります」「やろうやろう!」みたいな感じ(笑)。「新曲、いいやん!」って一緒にアレンジしてくれました。面白いなと思ったのは、ライブでやるためのアレンジってレコーディングのアレンジとは違う脳みそになるんですよ。当たり前だけど、やっぱりライブっぽいものになるっていうか。レコーディングのときは、ここにハットがいるかいらないか、キックを入れるか入れないか、めっちゃ細かいところまで一つひとつ詰めて考えるんですけど、「オンリーミー(仮)」の場合は、レコーディングはまだしないけどライブではやりますという状態でデモを渡したから、お客さんを前にして聴かせるためのアレンジにどんどんなっていくんです。だから「オーバーライフ」になってからも“先にライブでやった感”がめっちゃ出ていて。
——その後、いざアルバムを作るとなったときのメンバーのみなさんはどんな反応だったんでしょう。
橋本:ホンマに三者三様でした。愛子さんは「めっちゃ好き! 春のせいめっちゃ聴いてる!」って言ってくれたし、曽根さんは「意外と曲先だってわからないな、それくらい馴染んでる」って言ってくれて。シゲさんからは「コミュニケーション」のアレンジを一緒にしたときに「うわ、変な曲〜!」って言われました(笑)。たぶん褒め言葉だと思うんですけど(笑)。
——デモをお渡しするときに「こんな曲になってます」「これはこういうイメージで作りました」みたいな説明はするんですか。
橋本:いや、まったく(笑)。曲のデモと歌詞だけを渡して、あとはスタジオに入ったときにそれぞれの解釈をすり合わせていく感じです。
——メンバーとのアレンジ作業によって化けた曲があったりも?
橋本:いっぱいあります! 例えば「春のせい」をアレンジしているとき、曽根さんのギターフレーズはストリングスのイメージで作ったんだよっていう話をしたら、シゲさんが「実際に入れたらいいんじゃない?」って言ってくれたんですよ。
——それでチェロ奏者の吉良都さんにオファーをされたんですね。
橋本:はい。私一人だったらその発想はきっと出てこなかったと思います。実際、チェロが入ると入らないでは全然違って。チェロって音は低いけどベースとはまた違った音像なので、すごく面白かったですね。
——メンバーのアイデアで曲の世界がさらに広がるって素敵です。
橋本:本当に。自分では着地したと思っていたけど、そこがゴールじゃなかったんだって気づかされるのが楽しいんですよね。本当に何気ない一言からそうやって派生していくし、そのアイデアを試してみたい、聴いてみたいってワクワクできるのも嬉しくて。
——絵莉子さんが自分一人ですべてを完璧に仕上げたいタイプのアーティストではないからこそ味わえる醍醐味でしょうね、それは。
橋本:そうだと思います。私が作った最初の段階のデモを聴いたら「何これ!?」ってびっくりしますよ、きっと(笑)。私、デモを全然綺麗に作らないんです。パソコン上での作業って、突き詰めたらどこまでも整えられるじゃないですか。でも、それだとキリがなくなっちゃうので、もう粗いままでメンバーさんに渡しているんです。それを各自で解釈してもらって、そこから一緒にアレンジを進めていくから想像通りになんてならないし、だからこそ変わっていく喜びがあるんですよね。しかもみなさん、とにかく上手い方たちなので、その喜びと驚きたるやものすごくて。自分の曲がこんなに素敵なものになるのか!って毎回、本当に感動します。
——歌以外のベーシックなレコーディングに関しては、今回も全員「せーの」の一発録りですか。
橋本:はい。できる限りそうしています。
——一発録りにこだわる理由はなんでしょう。
橋本:純粋に「せーの」に勝るものはない気がするんです。勢いとかノリとか、お互いのリズム感もそう、一緒に演奏してるというだけで全然違うんですよ。あと、私はそのときに出た音が良ければ、それがすべてだと思うタイプなので、そのほうがわかりやすいし、やりやすいというのもありますね。曲ができるまではいろいろ試したいけど、レコーディングで「この音、いいな」と思えたら、それ以上の可能性は探らなくていいというか。もちろん、メンバーさんが「ちょっと待って、こっちも試したい」って言ったら「よし、やろう」ってなりますけど。
——キリがなくなるのが、あんまり好きではない……?
橋本:そうなんです(笑)。あれもいい、これ也不错ってなると決められなくなっちゃう。そうなるとドツボにハマって時間だけが過ぎてしまうので、いかに直感的に「これ、いい!」ってなれるかが大事なんですよね。
インタビュー・テキスト:本間夕子
★続きはインタビュー後半へ!
『OVER LIFE』収録曲を1曲ずつ解説します。
橋本絵莉子『OVER LIFE』
インタビュー【後編】
——では、ここからは1曲ずつ掘り下げさせていただきますね。
橋本:はい、よろしくお願いします。
M1:EMO
——曲先でいちばん最初にできたからか、アルバムの1曲目にふさわしい、新しさを感じさせる楽曲ですね。
橋本:ありがとうございます。最初に曲ができたときからもう、「1曲目はこれがいいな」って思っていました。
——どんなところから作り始めたんですか。
橋本:アコースティックギターのコードからです。コードを鳴らしているうちにメロディができて、それを録ったものを聴きながら言葉を探していたら、出だしの“口に入れたムーンライト”が出てきたんです。そこからはスルスル〜ッとできました。
——“ムーンライト”というセレクトがまた絶妙で。耳にしたときの響きや言葉から想起するイメージ、蘇ってくるホロリとした食感とか形とか、いろんなものが五感に訴えかけてきて、例えばカントリーマアムとかだったら成立しなかっただろうと思うんですよ。カントリーマアムも大好きですけど。
橋本:美味しいですよね(笑)。でも本当にメロディを口ずさんでいたら、ポロッと出てきたんですよ。私自身も思いもよらなかった言葉が出てくるのが曲先の面白さなんです。この曲に限らず、今回のアルバムは歌詞にカタカナが多いんですけど、そういうところも曲先ならではかなって。曲先だとカタカナがハマりやすいというのは発見でした。
——聴き終えたあとに残るしみじみとした余韻がまさにエモいな、と。“思い出は強いから/負けてもしょうがない”という一行がやけに沁みました。
橋本:「ああ、大人になったな」っていう歌詞ですよね。やっぱり40歳も過ぎるといろんな思い出があって、ふとしたときに当時の感情をめっちゃ思い出すんです。「あのときはあんなことを思っていたな」とか「こういう感情だったな」って。「前はこういう気持ちだったけど、今はこうだな」って比較したりとか。ただ、思い出というのは“もうないもの”ですから。思い出としては残っているけど、それ自体はもう今はない。そういうものに人間は勝てないんです。だから素直に負けを認めるしかないなと思ってそう書きました。
——アコギの弾き語りから口笛、エレキギター、ベース、ドラムって順番に音が重なっていく生身な肌触りにもグッときます。
橋本:実はこの曲、演奏だけじゃなくて歌も「せーの」で録ったんですよ。もともと音がめっちゃ少ないシンプルな曲だからこそ、歌をあとから乗せるより演奏と一緒に録ったほうが絶対よくなると思ったんです。それこそライブをレコーディングしている感覚で、クリックもなしにして録ってみたっていう。上手くいくかどうか最初はちょっと不安もあったけど、時と場所を同じくすることでそれぞれのパートが一つひとつ重なりながら一体になっていく感じが出せたと思います。
——もしかして口笛も一緒に?
橋本:いえ、口笛だけ後乗せでした(笑)。口笛ってすごく難しくて、リラックスしてるときじゃないとなかなか上手く吹けないんです。アンプを背負ってエレキでギューンってやったあととかは絶対無理なんですけど、ライブではそんなことも言っていられないので、しっかり練習しておかないとなって。
M2:ゾーン30
——歌詞も含め、この作品の象徴みたいな曲ですよね、「ゾーン30」は。曲先というゴールの見えない当てどなさや、でもそれを楽しんでいる感じが楽曲全体に満ち溢れていて。
橋本:そういう嬉しさがもろに出ていると思います。曲を作っているときは、そこまでウキウキワクワクしている自覚もなかったんですけど、あとから聴いたらめちゃくちゃ溢れてました(笑)。
——わりとスムーズに生まれた曲ですか。
橋本:そんなに悩んだりはしなかったんですけど、歌詞の“ゾーン30”のところだけ、なかなかハマる言葉が見つからなかったんですよ。どうしよう?って思いながらこのメロディに合う歌詞を探していたときに、たまたま近所で“ゾーン30”っていう看板を見つけたんです。「ゾーン30……? あ、ハマる!」って。それでタイトルも「ゾーン30」になったんです。何も考えずに歩いていたら気にも留めなかったと思うんですけど、当時はとにかくその部分を考え続けていた時期で、見るものすべてにメロディを当てはめていて。そしたら“ゾーン30”が目に飛び込んできて、しかも歩いている速度がちょうどよかったんですよね。「きた! これはバッチリや!」って。
——最後のハミングも楽曲のムードにとても合っています。
橋本:ハミングはメンバーみんなでやってるんです。もともとは丸ごと1曲、ユニゾンで全員が歌う曲にしたいというイメージがあって、そこから作り始めたんですよ。だからメロディもなるべく簡単でみんなが歌いやすいものを目指したんです。でも作っていくうちに、一人で歩いてる感じが似合う歌詞になったので、じゃあ最後のハミングだけメンバー全員でやろうって。
M3:春のせい
——アルバムに先駆けた先行配信として昨年11月にリリースされた「春のせい」ですが、この曲を配信第一弾に選ばれたのにはどんな理由があるのでしょうか。
橋本:今までとはまた違うっていう感じがいちばん伝わりやすい曲なんじゃないかなって。新たな予感みたいな……まだアルバムの告知はしていませんでしたけど、もう次が始まっていることをちょっとずつ感じてもらう最初の曲としてぴったりな気がしたんです。
——そうしたくなるくらい、ニューアルバムに対していいものができたという自信と喜びが絵莉子さんのなかにあったんでしょうね。
橋本:いいものっていうか、好きなものができたっていう感じかな。「わぁ、これ好き!」って思えるものができた嬉しさもそうですし、当初はちょっと曲作りの間を置こうかなって思っていたのが結局、まったく違うほうに転がり始めたっていう、その予期せぬ感じにもワクワクしていたんだと思います。
——絵莉子さんにとって春はどんな季節ですか。
橋本:ワクワクするけど、それと同じくらいの不安定さもある季節かなって。新学期とか新入社員とか新しく始まるときってどこか気持ちもフワフワしますよね。あと、肌寒いなと思ったら急に暑くなったりして気温の落差も結構あったり。そういう安定しない感じを全部季節のせいにしようと思って、このタイトルを付けたんです。いちばん最後に付けたんですけど、そうしたらすごくしっくりきて。タイトルにも助けられている曲だなって思います。
——ところで、歌詞カードにはない、♪あ〜で歌っている箇所がこの曲のサビという解釈で大丈夫でしょうか。
橋本:大丈夫です。まさに♪あ〜で歌って歌詞がないというのが曲先ならではなんですよ。歌詞を乗せようと思えば乗せられたし、最初はもちろん考えたんです。でも、どんな言葉を乗せても野暮ったくなってしまうんですよね。「これってどういうことなんだろう? でも英語にするのも違うな」っていろいろ模索しているうちに、言葉はいらないってことなのかもと思い始めて。歌詞が乗っていたらもっとサビっぽくなったんでしょうけど、無理に乗せなくても成立しそうだし、じゃあ(歌詞は)いらん!って(笑)。
M4:コミュニケーション
——そして村田(シゲ:B.)さんから「変な曲!」とお褒めの言葉をいただいたという「コミュニケーション」、めちゃくちゃかっこいい曲です。
橋本:私もすごく好きなんです。4曲目というわりと早い段階で登場するところにも私の好き度が表れています(笑)。「コミュニケーション」は最初にイントロのギターリフができたんですよ。それを繰り返しながら歌詞のフレーズを探していって。ずっと鳴っているギターリフに対して、淡々と歌っているような曲がいいなと思って、そのイメージで作ったんです。
——不穏な妖しさを漂わせたアンサンブルとちょっと寓話的な歌詞が見事にマッチしていますよね。歌詞には、今の時代のコミュニケーションに対する絵莉子さんの視点が歌われているようにも感じたのですが、どうでしょうか。SNSでの炎上とか、見方によって受け止めるものが異なってしまう怖さを“トリックアート”という言葉が暗喩しているのかな、とか。
橋本:たしかにそうとも取れるかも。でも私自身は正直、そういうSNSみたいな世界は想定していなくて。単純に自分が言ったことと相手が受け取ったことが食い違って誤解につながってしまったり、それを夜中に一人で思い返しながら「相手はどう受け取ったかな」とか「あのやり取りで合ってたのかな」って悶々としてる人を書いたんです。
——一方で、“想像なんておよしなさい”って客観的に諭してくれるもう一人の自分(あるいは誰か)も登場したり。
橋本:そういうところがちょっとお話っぽいんですよね。お芝居っぽいというか。どこか物語仕立てというか、ミュージカルっぽい雰囲気がこの曲にはあるんです。
——“(よみがえるコミュニケーション)”がカッコで括られているのも、そうしたイメージからでしょうか。台本のト書き的な。
橋本:お芝居の途中で、唐突に歌う人が登場してくる場面ってあるじゃないですか。主人公のセリフじゃなくて第三者が語る、みたいなイメージがあったのでカッコで括りました。しかも2番では歌う人がさらに増えるっていう(笑)。
——鳥の鳴き声を“ちゅるん ちゅるん”と表現しているところも絵莉子さんっぽいなと思いました。
橋本:鳥の鳴き方にもいろいろあるから、それぞれ歌って試してみたんですよ、“ちゅちゅん ちゅちゅん”とか。そのなかでいちばんこの曲に合いそうだったのが“ちゅるん ちゅるん”だったんです。ちょっとおどろおどろしさもあって、どんな鳥だろう?と思わせる感じがいいなって。実際に鳥の声がしたら面白いなと思ったのでバードコールも鳴らしています。
M5:再会
——「再会」は詞先と曲先の間で紆余曲折しながら作られた曲だとのことで。
橋本:そうなんです。詞先で作ったものが最初にあったんですけど、そこからメロディと歌詞を全部除いて、楽器のアレンジだけを残した状態にしてから、改めてまったく違うメロディを付けて歌詞を乗せたんです。詞先で始まったものを結局、曲先にしたということなんですけど。
——なぜそうすることにしたんでしょう。
橋本:「やっぱ、や〜めた」って思っちゃったんですよね。最初はもっと言葉が詰まっていたんですよ。自分でも「ちょっと詰まりすぎてるな」と感じるくらいだったんですけど、詞先で作っているから削るのも難しくて。じゃあいっそのこと全部ナシにして、新しく作ったらもっとよくなるんじゃないか?って。一度完成しているから、もし上手くいかなくても元には戻せるじゃないですか。なので楽器の音やアレンジはそのまま、違う曲を作るつもりで曲先にトライしてみたら、本当に全然違う曲になりました。
——大切な人へ気持ちを届けたい、伝えたい、そういう願いのこもった曲ですよね。離れてもずっと大事だよって。
橋本:そうですね。身近にいる人というより、もう会えない人に向けた気持ちというほうが強いかもしれないです。
——これも歌詞には書かれていないですけど、曲中に“はぁ……”と息をついている箇所があります。あれはため息ですか。
橋本:ため息です。この曲調だから、ため息を入れても大丈夫だろうと思ったんですよ。すごく前向きでガシガシ進んでいるように見えるかもしれないけど、そういう言葉にしづらい部分みたいなものも、この曲だったら入れられる気がしたので。
M6:ストーリーテラー
——「ストーリーテラー」はパッと聴き、可愛らしい雰囲気の楽曲ですけど、歌詞を読むとかなり切ないです。
橋本:元も子もない曲ですよね(笑)。「コミュニケーション」にも通じる部分があるんですけど……何気ない返事が違う未来を作ることってあると思うんですよ。
——そういうつもりじゃなかったのに、相手の解釈によってルートが変わってしまったり?
橋本:そういう場合もあるし、ホンマは違うと思っていても、つい「うん」って言っちゃったりとか正直なことが言えなかったっていうパターンもあるだろうし。
——ぶっちゃけ、これは悲劇なのでしょうか。
橋本:悲劇だけど、悲嘆に暮れているわけでもないっていう感じかな。思ってもいないところにきてしまったけど、「そういうものですよね、人生って」みたいな。半ば諦めてるというか、主人公を放棄しちゃってるイメージなんです。
——だから「ストーリーテラー」。
橋本:そうです、そうです。そういう冷めた温度感がこの曲にはありますね。「悲しいけど、なんとかなるよ」とか「きっといい未来が待っているよ」みたいな方向にも持っていきたくなかったんです。なるべく平熱な感じで作りたくて。
——“ずっと続くの”というフレーズも、「これがずっと続くんだよね〜」っていう諦観を含んだニュアンスなのか、「ずっと続くの?」って疑問符が付くのかでずいぶん違いますよね。
橋本:うん、どっちにも取れると思います。そこはもうお任せですね。聴いてくださる方に自由に感じてもらえたら。
M7:オーバーライフ
——『街よ街よ』のツアー(“街よ、見街よ、良い街よツアー 2024”/2024年10月開催)で披露されたときは「オンリーミー(仮)」だったこの曲が「オーバーライフ」になった経緯を教えてください。
橋本:アルバム制作中にすべての曲の歌詞だけ見直す期間を設けていたんですよ。曲としてではなく歌詞だけを見たらどうなんだろう?って。そのときに「この曲はまだいける」と思ったんです。なので詞先で作っていた「オンリーミー(仮)」のサビを書き直すことにして。
——「オンリーミー(仮)」はもっと内省的な印象でしたけど、「オーバーライフ」はかなり前向きになった気がします。
橋本:よくドアに“STAFF ONLY”って書かれていたりするじゃないですか。「オンリーミー(仮)」はそこから着想を得て、扉のこっち側と向こう側で人は変わるよね、みたいなことを書いていたんですよ。“STAFF ONLY”のドアを開けて中に入った途端、外側に向けていたスタッフの顔じゃなくなるとか、扉一枚で世界は変わるっていう部分に主眼を置いて書いていたので内省的に感じられたと思うんですけど、「オーバーライフ」では扉は残しつつも“部屋と外”というところまで世界を広げて、もう少し光を足したんです。光というか、救いというか。
——“ほとんどが/歌にならない生活でも”、“ほとんどが/曲にならない結末でも”という歌詞には絵莉子さんの強い意志が宿っていますよね。アーティストを生業とされていると、どうしてもドラマティックなものを求めたり求められたりしがちだと思うんですけど、人生の大半は歌にも曲にもならないようなことで占められていて。それでも、そういう生活を慈しんで生きていきたいっていう決意が込められていると感じました。
橋本:その通りだと思います。歌えるようなことばっかりじゃない、むしろ曲にできないことばっかりだよってことをこの曲では歌っているんです。部屋にこもってどんな絵を描いていても、外でどんな玉に乗っていても、日常とはそういうものだし、ちゃんと水をあげましょうって。
——歌にも曲にもならなくても、生活そのものが絵莉子さんの音楽の源泉になっているんだろうなとも思いますし。
橋本:これはアルバムタイトルにも繋がる話なんですけど……今となっては生活や暮らしが私の描くものなんでしょうね。音楽を始めたばかりの頃は、生活とか暮らしとか「何それ?」みたいな感じだったんですよ。10代の自分にとって生活や暮らしっていうのは親が作ってくれたもので、その環境から飛び出していきたい気持ちばかりが大きかった。生活とか暮らしよりも自分のやりたいことに突き進んでいきたい、夢や目標に向かってひたすら走っていきたいって。そうして飛び出した先でバンドを始めて、忙しく過ごしていた20代のときも「暮らし? 生活? そんなことより音楽がやりたい。もっともっとバンドを頑張りたい」みたいな。でも、それを経て、今度は自分で生活を作るようになったんです。結婚して、出産して、10代のときには親からもらっていたものを、今度は自分の手で作り始めて。
——ものすごく大きな変化ですよね。
橋本:だから、どうしたって歌うものが暮らしとか生活になってしまうんですよ。もちろん曲を作っているときは一人だし、生活や暮らしからは切り離された状態だから、10代のときの感覚がまだ残っているんです。暮らしを飛び越えて「プロになりたい」と息巻いていたときの感覚、生活を超えて作っているという感覚が。でも今回、あとから歌詞を乗せたときに、気づけば自分の周りにある暮らしや自分が作った生活を通した目線で描いたものが多いことにハッとして。
——生活を超えて音楽に打ち込んでいる絵莉子さんと、自分の手で作り上げた生活のなかで生きている絵莉子さんが少しずつ混ざろうとしているのかもしれないですね。音楽も生活も、どちらもご自身の手によるものになったことで、もはや相反しなくなったというか。
橋本:そうかもしれません。音楽との向き合い方はすごく過渡期な気がしています。
——「オーバーライフ」ができたから、アルバムタイトルも『OVER LIFE』にしたというわけではないのでしょうか。
橋本:単純に時期がすごく近かったんですよ。この曲の歌詞を「もうちょい、いけそうだな」って考えているときに、ちょうどアルバムのタイトルも考えていて。この曲は「オーバーライフ」にしたいな、でもアルバムタイトルも『OVER LIFE』がいいなと思ったので、こうなりました。
M8:大人げないね
——タイトルからして橋本絵莉子節が大炸裂していますね。
橋本:“大人げない”って大人だからこそ使える言葉だと思うんですよ。それが面白いなと思ってタイトルに付けたんです。
——大人げないってどういうことを指すと思います?
橋本:やっぱり感情的なことじゃないかな。それこそ「春のせい」じゃないですけど、帰りたいと思っても「一抜けた」って簡単に言わないのが大人だと思うんですよ。誰にどう思われても気にしない、自分がどうしたいかを優先させるのが子供じゃないですか。「せっかく」っていう概念も子供にはないから、時間をかけて作ったものも違うと思ったら平気で壊すでしょう? 今こうしたいとか、今これがイヤだとか、そのときの感情で動くのが子供だし、だからこそ感情を露わにすると「大人げない」って言われちゃうのかもしれないなって。なので、この曲では露わにしてみたんです。
——大人だからこその大人げなさが歌詞のそこここに表れていますよね。“大人げない声を聞かせてよ”“大人げないことを話そうよ”と誘っておいて、“こんなんじゃ足りない”って言っちゃうところとか(笑)。
橋本:そう、自分がいちばん大人げない(笑)。
M9:電車でガタゴト
——「電車でガタゴト」は『街よ街よ』のリリース後、最初にできた曲だとおっしゃっていましたが、この歌詞は実際に電車に乗っていて生まれたものだったりされますか。
橋本:はい。最初に詞先で作ったあと、サビ以外を曲先で作り替えるときに「自分は電車に乗っているとき、何を見てるやろ」と思ったところから、どんどん進めていきました。
——“Please be careful of the doors.”って1行まるまる英語で書かれている歌詞がかなり新鮮で。
橋本:「手を挟まんように気をつけてや」って電車のドアによく書いてあるやつです。でもイントネーションは全然英語っぽくないでしょう? すでにできあがっているメロディに言葉が引っ張られて、聴いた人が「え? なんて言った?」ってなる感じが面白いかなって思ったんです。
——まさにそうなりました(笑)。この曲には「ゾーン30」とはまた違う当てどなさが漂っていますね。
橋本:「ゾーン30」にはこの先は吹きっさらしの未来に向かってどうなるんだろうっていうワクワク感があるけど、この曲は「いつ降りよう?」「どこで降りるんだっけ?」みたいな迷いや頼りなさが出ているんです。自分の力で進んでいるんじゃなくて電車に運んでもらっているっていうのも一因としてあると思うんですけど。『街よ街よ』をリリースしたあと、いちばん最初に作った曲なので、たぶんその感じも出ているのかなって。
M10:ここで
——サウンドのオルタナ感、流麗なメロディ、切実な感情が綴られた歌詞の三拍子が揃った、個人的には今作で一、二を争う名曲だと思っています。
橋本;嬉しいです。「ここで」はいちばん最後にできた曲なんですよ。2025年の夏か秋の始まりの頃、このアルバムで最初のレコーディングをしたあとに滑り込みで作ったんです。でも作り始めはこういう曲になると思っていませんでした。それまでと同じように、ギターを弾きながらメロディを口ずさんで、それに合う言葉を探して、ってやっていたら、冒頭のサビの歌詞がバーッと出てきて「あ、こんなこと思ってるんだ、私」みたいな。
——アーティストとしての自分と人間としての自分、そこに生まれる葛藤や逡巡が如実に迫ってくる気がしました。ある意味、とても赤裸々ですよね。
橋本:そうですね。丸腰で剥き出しなものをやってみようと思った瞬間があって、そうしたらこういう言葉が出てきたんです。でも最初はただ単純に「やってみたい」っていう興味本位な気持ちで作り始めたのに、恥ずかしいくらい剥き出しになってしまって「うわ、どうしよう」って。今回のアルバムにも合うかどうかわからないし、とりあえず周りのみんなに聴いてもらったら「入れましょう」って言ってくれたんですよ。(北野)愛子さん(Dr.)も「めっちゃ好き。もし今回のアルバムじゃなかったとしても絶対やったほうがいいと思う」と言ってくれたので、「よし、入れよう!」って決めました。
——歌詞に“日常”という言葉が使われていたり、どこか「オーバーライフ」でおっしゃっていたことに通じるものがあるようにも感じます。
橋本:まさに「オーバーライフ」にも繋がってくるんですけど……今の自分が作っている生活を守りたい気持ちってやっぱりすごくあるんですよ。攻め込まれるわけにはいかないし、もっといい場所にもしていきたい。でも、それって10代の頃、親からもらっていた暮らしから飛び出して「この先どうなるかわからへんけど、でも、これがやりたい!」って無我夢中になっていたときとは景色が全然違うわけで。そのなかで自分が言えることってなんだろう? そこから見える景色で音楽を作っていくってどういうことだ? みたいな気持ちが出てきたんでしょうね。
——生活を大事に守っていきたい気持ちと、そんな温かくて安全な場所から何が言えるんだろうという自分への問いかけと。
橋本:自分の手で作れるものってホンマに限られているじゃないですか。だからこそ大事にしたいし、ちゃんと維持したいって思うんです。でも心が痛くなる瞬間は世の中にいっぱい落ちていて……考えだしたらキリがないんですけどね。ただ、はっきり言えるのは、もうここからは離れられないし、離れたくないということ。なので「ここで」というタイトルにしたんです。純粋に今、ここで自分が歌えるのはどんな歌だろうっていう気持ちもありますし。
——もしかしたらもう“誰の心も汚せない”かもしれないけど、それでも私はここで歌っていくんだという覚悟も感じました。今の絵莉子さんだから生み落とせた、その最たる曲なのではないでしょうか。
橋本:私もそう思います。今の自分の、深いところまでいった歌詞かもしれないですね。ちなみに「ここで」で使われている歌はオケ録りのときに歌った仮歌なんですよ。ちゃんとレコーディングした歌も存在するんですけど、使われると思っていない仮歌の歌い方がこの曲には似合っていて。何回も聴き比べて、最終的にこっちを選んだんです。
M11:ゆれる
——「ここで」から「ゆれる」へという流れがまた大変素晴らしいですが、この曲はどのように生まれたのでしょうか。
橋本:歌詞の“「誰かを愛したなら/その人を解放しなさい」”というフレーズは家にあった黒いTシャツにプリントされていた言葉なんですよ。実際には英語で書かれていたんですけど、洗濯したのをボーッと見てるうちに、なんて書いてあるのか気になって。それで携帯で調べたら、こんな意味やったんや!って。で、メモに残しておいたその翻訳を、今回、曲先で作っているときに「あのメモ、ハマるかも」と思って歌ってみたらぴったりだったんです。
——実に深い言葉ですよね。
橋本:意味を知ったとき「うわ〜!」って思いました。好きなものって独占したくなりがちだけど、そうじゃないんだって。村上春樹が翻訳している「おおきな木」(シェル・シルヴァスタイン作の絵本)にも通じる気がしたんですよ。好きな人に全部を差し出して、最後は切り株になっちゃうっていうお話ですけど、根っこのところは一緒なのかもって。それでメモしておいたんです。でもポイントなのは、私の言葉じゃなくてTシャツに書いてあったというところで。その絶妙な距離の遠さのおかげで歌にできたと思うんですよね。
——アウトロで風が吹き荒れるようなエレキギターが鳴って、最後の最後に弦をキュッと押さえる音で終わりますよね。アコギの弾き語りから始まって、その音で締めくくられるのがアルバムとして素敵だな、と。
橋本:そうなんです! ギター1本で始まって、最後もギター1本の音で終わるっていう。はじめからそれを意図していたわけじゃないですけど、結果的にすごくこのアルバムらしくなったと思いました。
——1曲ずつたっぷり解説していただきましたが、これからも曲先というスタイルは続けていきますか。
橋本:続けていったらどんなふうになるのか、興味はすごくありますね。今回は全部、家で作ったので、別の場所で作ったらどうなるんだろうとか、そういうこともいろいろ考えたりはしているんです。
——改めてアルバムタイトルについても伺わせてください。お話いただいたことを総合するに『OVER LIFE』は“生活を超えて”という意味で捉えているのですが、大丈夫でしょうか。訳し方によっては“生涯を通じて”“一生に渡って”という意味にもなりますけれど。
橋本:“OVER”っていろんな意味がありますもんね。でも、このアルバムは“生活を超えて”で合ってます。やっぱり私の曲に向かう姿勢としては生活を超えないと作れないんですよ。そのうえで自分が見ているものは生活や暮らしなんだっていうことに気づいたのが今回なんですよね。実際にできあがった曲を並べて歌詞を見てみたら、生活とか日常とか暮らしがめっちゃ出てきていたんです。特に今回はほとんど曲先で作っていて、こういうことを書こうとか意図していない曲がほとんどだったのに、それでもこんなに生活が歌詞に出てきてるということは、どれだけ自分が生活を飛び越えて曲を作っていても囲まれているのは日常なんだなって。
——生活を超えて曲を作ろうとする絵莉子さんと、そんな絵莉子さんの意志を超えて厳然と存在する生活、“OVER”にはその両方の意味が備わっているようにも思います。考えてみれば『日記を燃やして』も日常を燃料にして生まれた作品だし、『街よ街よ』にしても“街=暮らしの場”なわけで、生活はずっと絵莉子さんの音楽と共にあり続けていますしね。
橋本:3枚作ってそれを認識したという感じです。だからこそ次は家じゃないところで作ったらどうなるんだろう?っていう考えにたどり着いたんですよ。
——物理的に生活圏から離れてみるっていう。いっそ海外に出ちゃいます?
橋本:それはどうでしょう? 庭とか公園ぐらいかも(笑)。
——3枚のアルバムを作ってきて、ソロとして絵莉子さんが目指したいものなど見えてきたものはありますか。
橋本:それはわからないけど、曲作りにおいては予想外なこと、「こんなふうになると思ってなかった」っていうのが好きなんやなって今回のアルバムで改めて発見しました。「曲先にそれがあったんか! めっちゃ近くにおったやん」みたいな。もちろん曲先という作り方があることはずっと前から知っていたんですけど。ずっと詞先って珍しいねって言われてここまできて、それをすごく誇りに思っていたからこそ、こんな近くにもっと驚くことがあったんだって。
——今後、ツアーのご予定は?
橋本:あります! まだレコーディングでしか演奏していないから、生でバンドで鳴らしたらどんなふうになるのか、私もすごく楽しみなんです。
インタビュー・テキスト:本間夕子